コーチング
コーチングとカウンセリングの違いとは? 目的・進め方・選び方を比較
「コーチングとカウンセリングって、何が違うの?」。話を聴いてもらい、問いかけを受けながら考える。外から見ると、この2つはよく似ています。結論から言うと、いちばんの違いは目的です。カウンセリングは心の苦しさをやわらげ、回復することに重心があります。コーチングは望む未来に向けて考えを整理し、行動を前に進めることに重心があります。この記事では、両者の違いを目的・対象・進め方・資格の観点で比較し、コンサルティングやティーチングとの違い、自分に合う支援の選び方まで整理します。
この記事の要点
- コーチングとカウンセリングの違いは、主な目的にある。カウンセリングは回復、コーチングは前進に重心を置く。
- どちらも傾聴・問い・信頼関係を大切にするため、進め方には共通点が多い。
- 心身の不調で生活に支障があるなら、まず医療機関やカウンセリングへ。生活が回っていて「この先」が悩みならコーチングが向いている。
- コンサルティングやティーチングは「答えを渡す」支援、コーチングは「答えを引き出す」支援です。
コーチングとカウンセリングの違い(結論)
コーチングとカウンセリングの違いは主な目的にあり、カウンセリングは心の苦しさの回復を、コーチングは望む未来に向けた前進と可能性の発揮を重視します。
よく「カウンセリングはマイナスをゼロに、コーチングはゼロをプラスに」と説明されます。わかりやすい言い方ですが、実際にはそこまできれいに分かれません。カウンセリングでも将来のことを話しますし、コーチングでも過去の経験に触れることはあります。違いは「どこに重心を置くか」だと考えると、実態に近くなります。
| 観点 | カウンセリング | コーチング |
|---|---|---|
| 主な目的 | 心の苦しさをやわらげ、回復する | 望む未来に向けて、行動を前に進める |
| 主な対象 | 悩みや不調を抱え、心の負担が大きい人 | 生活はおおむね回っていて、この先を変えたい人 |
| 時間の向き | 過去と現在をていねいに扱うことが多い | 現在と未来を中心に扱うことが多い |
| 関わり方 | 受け止め、理解し、安心できる場をつくる | 問いで考えを引き出し、目標と行動を一緒に整理する |
| 日本での資格 | 国家資格の公認心理師、民間資格の臨床心理士など | 国家資格はなく、民間団体の認定資格がある |
| 医療との関係 | 医療機関と連携して行われることも多い | 医療行為ではない。不調があれば医療につなぐ |
カウンセリングとは:回復のための対話
カウンセリングは、悩みや心の苦しさを抱えた人が、専門家との対話を通じて自分の気持ちを整理し、回復していくための支援です。
カウンセリングの土台をつくった心理学者の1人、カール・ロジャーズは1957年の論文で、人が良い方向へ変わっていくための条件として、カウンセラーが偽りなく自分自身であること(自己一致)、相手を条件なしに受け入れること(無条件の肯定的関心)、相手の内側の世界を共感的に理解することなどを挙げました。この考え方は、いまも多くの対人支援の基本になっています。
日本では、2017年に施行された公認心理師法により、心理職の国家資格として公認心理師が誕生しました。心の不調がある場合、医療機関で医師の診療と並行して心理職の支援を受けることもできます。
カウンセリングを受けられる主な場所
「カウンセリングを受けたいけれど、どこに行けばいいかわからない」という声もよく聞きます。主な窓口は次のとおりです。
| 窓口 | 特徴 |
|---|---|
| 心療内科・精神科 | 医師の診察を受けられる。心理職によるカウンセリングを行っている医療機関もある |
| 職場の産業医・相談窓口 | 会社によっては、産業医や外部の相談サービスを利用できる。仕事に関わる悩みを相談しやすい |
| 自治体・公的機関の相談窓口 | 保健所や精神保健福祉センターなどで、心の健康に関する相談を受け付けている |
| 民間のカウンセリングルーム | 予約制で、じっくり時間をとって話せることが多い。料金や支援者の資格は施設ごとに確認が必要 |
| 大学の学生相談室 | 学生であれば、在籍する大学の相談室を利用できることが多い |
どこに相談すればいいか迷う場合は、まずかかりつけ医や、自治体の相談窓口に連絡してみるのも1つの方法です。
コーチングとは:前進のための対話
コーチングは、対話と問いを通じて本人の内側にある考えや力を引き出し、望む未来に向けて行動を前に進めるための支援です。国際コーチング連盟(ICF)は、クライアントが仕事と人生における可能性を最大限に発揮できるよう、パートナーとして関わることをコーチングと定義しています。
コーチは答えを押しつけません。「本当はどうしたいのか」「何がそれを邪魔しているのか」「今週、何を試してみるか」といった問いを通じて、本人が自分で答えを見つけ、行動に移すことを支えます。必要に応じて、本人がまだ踏み込んでいない領域の知見やアイデアも提供しますが、何を選ぶかを決めるのは本人です。コーチングの3つの目的は、コーチングの真の価値とは何か?で詳しく解説しています。
1回のセッションでは何をするのか
違いをもう少し具体的にするために、それぞれのセッションの一般的な流れを見てみます。実際の進め方は、支援者の考え方や流派によって異なります。
カウンセリングの一般的な流れ
カウンセリングでは、まず安心して話せる場をつくることが大切にされます。いま何がつらいのか、それがいつ頃から続いているのかをていねいに聴き、気持ちを言葉にしていきます。急いで解決策を出すよりも、本人が自分の気持ちを理解し、受け止められるようになることを重視するのが一般的です。必要に応じて、医療機関の受診をすすめることもあります。
コーチングの一般的な流れ
- テーマを決める今回のセッションで何を扱いたいか、終わったときにどうなっていたいかを最初に確認します。
- 現在地を整理するいま起きていること、うまくいっていること、引っかかっていることを、評価せずに言葉にしていきます。
- 本当に望むことを掘り下げる「本当はどうしたいのか」「何がそれを邪魔しているのか」を、問いを通じて探ります。
- 次の一歩を決める次回までに試してみる、小さく具体的な行動を本人が選びます。
- 振り返る次のセッションで、やってみてどうだったか、何に気づいたかを確かめ、次の一歩につなげます。
カウンセリングが「いまの気持ちを受け止めること」に時間をかけるのに対し、コーチングは「次の一歩」まで話を進めることが多いのが特徴です。ただし、気持ちを無視して行動だけを決めるわけではありません。気持ちが整理されていない状態で決めた行動は、続かないからです。
共通点:どちらも「関係の質」が土台になる
目的は違っても、コーチングとカウンセリングには多くの共通点があります。どちらも相手の話を深く聴き、問いかけ、本人のペースを尊重します。そして、どちらも支援する人とされる人の信頼関係が欠かせません。
心理療法の研究では以前から、支援者とクライアントの協力関係(ワーキング・アライアンス)の質が成果と関係していることが知られてきました。コーチングでも、グラスマンらが2020年に発表したメタ分析で、この関係の質がコーチングの成果と一貫して結びついていることが報告されています。ただし、この分析は相関を示したもので、主に満足感や気持ち・考え方の変化との関係が強く、目標達成そのものとの関係は別に検討が必要です。
ポイント
コーチングでもカウンセリングでも、「この人には安心して本音が話せる」と感じられるかどうかは、支援者を選ぶうえで大切な基準です。最初の面談で、相手の話し方や質問の仕方が自分に合うかを確かめてみてください。
コンサルティング・ティーチング・メンタリングとの違い
コーチングは、ほかの支援ともよく比べられます。大きな違いは、「答えを誰が持っているか」です。
| 支援 | 主な目的 | 答えを持つのは | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| コーチング | 本人の力を引き出し、前に進む | 本人 | やりたいことはあるのに動けない、方向を自分で決めたい |
| カウンセリング | 心の苦しさをやわらげ、回復する | 本人(専門家が安全な場を支える) | つらさが強く、まずは気持ちを整理したい |
| コンサルティング | 専門知識で課題を解決する | 専門家 | 業務やビジネスの課題に、専門的な解決策がほしい |
| ティーチング | 知識やスキルを教える | 教える人 | やり方そのものを知らない、基礎を学びたい |
| メンタリング | 経験者が助言し、成長を見守る | 経験者(先輩・上司など) | 同じ道を歩んだ人の経験から学びたい |
どれが優れているということではありません。知識が足りないなら教わるのが早く、心が疲れきっているならまず回復が必要です。そのうえで、「わかってはいるのに動けない」「スキルはあるのに活かしきれない」という悩みには、コーチングが力を発揮します。
なお、合同会社内向型の「無料カウンセリング」は、コーチングを始める前の初回相談の呼び名です。いまの状況や悩みをうかがい、コーチングが合いそうかどうかを一緒に確かめる時間で、心理的な治療を行うものではありません。お話をうかがったうえで、医療機関やカウンセリングのほうが合っていると感じた場合は、正直にそうお伝えしています。プログラムの内容や料金は内向型専門コーチングで紹介しています。
自分に合うのはどっち? 選び方チェックリスト
迷ったときは、次のチェックリストで、いまの自分に当てはまるものを数えてみてください。
カウンセリング・医療を先に検討したいサイン
- 気分の落ち込みや不安が2週間以上続いている
- 眠れない、食欲がないなど、体にも変化が出ている
- 仕事や家事など、日常生活を回すのが難しい
- 過去のつらい出来事が頭から離れず、苦しい
- 「何かを目指す」よりも、まず休みたいと感じる
コーチングが向いているサイン
- 生活はおおむね回っているが、このままでいいのか迷っている
- やりたいことはあるのに、なかなか一歩が踏み出せない
- スキルや経験はあるのに、職場で活かしきれていない
- 考えがぐるぐる回って、ひとりでは整理しきれない
- 答えを教わるより、自分で納得して決めたい
注意
上のサインに当てはまる場合や、自分では判断がつかない場合は、まず心療内科・精神科などの医療機関に相談してください。治療中にコーチングを検討するときは、主治医に相談したうえで判断することをおすすめします。
よくある3つの誤解
「カウンセリングを受けるのは、心が弱い人」
カウンセリングは、心の負担が大きくなったときに使う専門的な支援です。体の不調で病院に行くのと同じように、心がつらいときに専門家を頼るのは、自分を大切にする判断です。弱さの証明ではありません。
「コーチングは、意識の高い人や経営者のもの」
コーチングは企業の管理職研修などで広まったため、そうしたイメージを持たれがちです。ですが実際には、「このままでいいのか迷っている」「人間関係で力を出しきれない」といった、ごく身近な悩みも扱います。大きな目標がなくても、受けることができます。
「コーチは、正しい答えを教えてくれる」
コーチは、自分では思いつかなかった視点やアイデアを提供してくれます。ただし、それは「これが正解です」と答えを渡すこととは違います。いくつかの選択肢の中から選び、決めるのは本人です。決まった正解を教えてほしい場合は、コンサルティングやティーチングのほうが合っています。コーチングで得られるのは、答えそのものよりも、自分で答えを見つけて動ける状態です。
支援者を選ぶときに確認したいこと
コーチもカウンセラーも、支援者によって考え方や得意な領域はさまざまです。申し込む前に、次の点を確認しておくと安心です。
- どんな人の、どんな悩みを主に支援しているか(専門領域)
- どんな考え方や方法にもとづいて支援しているか
- 心身の不調が疑われるとき、医療機関につなぐ方針があるか
- 話した内容の秘密が守られるか(守秘義務)
- 料金、期間、途中でやめる場合や返金の条件が明確か
- 体験セッションや初回相談で、相性を確かめられるか
とくにコーチングは国家資格がない分、支援者ごとの考え方の違いが大きくなります。最初の面談で「この人と話すと考えが整理される」と感じられるかどうかを、大切な判断材料にしてください。
内向型の人が迷ったときの考え方
内向型は病気でも、直すべき欠点でもありません。人と会ったあとに疲れやすいのは、刺激の受け取り方の違いによるもので、それ自体はカウンセリングや治療の対象ではありません。疲れやすさの理由と回復のしかたは、内向型が人と会うと疲れる理由で紹介しています。
ただし、外向型を演じ続けて消耗し、心身に不調が出ている場合は話が別です。その場合は、まず回復を優先してください。そのうえで、「では、自分らしいままどう働き、どう人と関わるか」を考える段階になったとき、コーチングが役に立ちます。
内向型の人がコーチングに向いている理由の1つは、ひとりで深く考える力をすでに持っていることです。コーチングは、その考えを対話によって外に出し、整理し、行動に変えていく場になります。内向型の生きづらさを感じている方にとっても、「演じる」でも「こもる」でもない第三の選択肢を探す手助けになるはずです。私たちのコーチングの考え方は中庸メソッドで紹介しています。
まとめ:違いは「目的」、選ぶ基準は「いまの自分」
コーチングとカウンセリングは、どちらも人の話を深く聴き、本人のペースを尊重する支援です。違いは主な目的にあり、カウンセリングは回復を、コーチングは前進を重視します。
どちらが正しいかではなく、いまの自分に何が必要かで選ぶこと。心が疲れきっているなら、まず休んで回復する。生活が回っていて、「この先」を変えたいなら、コーチングで一歩を踏み出す。その順番を大切にしてください。
参考文献
- International Coaching Federation. What is Coaching? ICF公式サイト.
- Rogers, C. R. (1957). The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. Journal of Consulting Psychology, 21(2), 95–103.
- Graßmann, C., Schölmerich, F., & Schermuly, C. C. (2020). The relationship between working alliance and client outcomes in coaching: A meta-analysis. Human Relations, 73(1), 35–58.
- 厚生労働省.公認心理師.厚生労働省ウェブサイト.
よくある質問
コーチングとカウンセリングの一番の違いは何ですか?
主な目的です。カウンセリングは心の苦しさをやわらげ、回復することに重心があり、コーチングは望む未来に向けて考えを整理し、行動を前に進めることに重心があります。どちらも傾聴や問いを使うため、進め方には共通点も多くあります。
コーチングとカウンセリング、どちらを受ければいいか迷っています。
気分の落ち込みや不安が続く、眠れないなど、心身の不調で日常生活に支障が出ている場合は、まず医療機関やカウンセリングを検討してください。生活はおおむね回っていて、「この先どうしたいか」「力を活かしきれていない」ことが悩みの中心であれば、コーチングが向いています。
コーチングとカウンセリングを同時に受けてもいいですか?
目的が違うため、併用すること自体はありえます。ただし治療中の場合は、主治医やカウンセラーに相談したうえで判断してください。コーチの側も、医療の領域に踏み込まないよう配慮する必要があります。
コーチやカウンセラーに資格は必要ですか?
日本では、心理職の国家資格として公認心理師があります。一方、コーチングには国家資格がなく、民間団体の認定資格があります。資格の有無だけでなく、どんな考え方で、どんな相手を支援してきたのかも確認すると選びやすくなります。