コーチング
コーチングの真の価値とは何か?
「コーチングって、結局何のために受けるものなんだろう」。そう感じている方は多いと思います。結論から言うと、コーチングの目的は大きく分けて3つあります。自分のこれまでの考え方や生き方に気づくこと。自己効力感を高めること。そして、新しい考えや発想を身につけることです。この記事では、3つの目的を順番にひもときながら、コーチングが本当に役に立つのはどんな人か、反対に必要ないのはどんな人かまで、正直にお伝えします。
この記事の要点
- コーチングの目的は「自分のこれまでに気づく」「自己効力感を高める」「新しい発想を得る」の3つ。
- 悩みがなく、自分で課題を見つけて動ける人には、コーチングは必ずしも必要ない。
- 効果が大きいのは「わかっているのにできない」「完璧主義で行動が止まる」といった、心の動きが壁になっている場面。
- 人は弱いからこそ、伴走者の励ましが一歩を後押しする。そしてコーチは、自分の頭だけでは届かない発想をもたらす「もう1つの脳」になります。
コーチングの目的は大きく3つ
コーチングの目的とは、対話を通じて自分の考え方のくせに気づき、自己効力感を高め、新しい考えや発想を身につけることで、本人が自分の力で前に進める状態をつくることです。
国際コーチング連盟(ICF)は、コーチングを「思考を刺激する創造的なプロセスを通じて、クライアントが仕事と人生における可能性を最大限に発揮できるよう、パートナーとして関わること」と定義しています(筆者による要約訳)。私たちはこの「可能性の発揮」を、上の3つの目的に分けて考えています。
目的❶ 自分のこれまでの考え方や生き方に気づく
1つ目の目的は、何が自分の行動や思考のくせになっているのかに気づくことです。人は自分の考え方を「当たり前」だと思っているため、そのくせを自分ひとりで見つけるのは簡単ではありません。
たとえば「人に頼ると迷惑をかける」「完璧に準備してからでないと動いてはいけない」。こうした思い込みは、本人には事実のように感じられています。対話の中で言葉にしてみると、「これは事実ではなく、自分の解釈だったのかもしれない」と気づくことがあります。その気づきが、これまでと違う行動をとる手がかりになります。
悩んでいない人に、コーチングは必要ない。
効くのは「わかっているのにできない」人だ。
なんでも自分でできる人には、出番がない
正直に言えば、悩みがなく、なんでも自分でできる人にコーチングは必要ありません。すでに自分で課題を見つけ、考え、動ける人がコーチングを受けても、「わかりきったことを聞かれている」と感じて、かえって不快になることもあるでしょう。
自走できる人とは、この適応課題を自分の力で乗り越えられる人です。そういう人には、コーチングの出番は多くありません。
「わかっているのにできない」人にこそ効く
反対に、コーチングが大きな力を発揮するのは、次のような場面です。
- やるべきことはわかっているのに、なぜか手がつかない
- 完璧にやろうとするあまり、最初の一歩が踏み出せない
- 途中までは進むのに、ある地点で行動が止まってしまう
- 同じ失敗や人間関係のパターンを、何度も繰り返してしまう
これらは知識やスキルの不足ではなく、心の動きが壁になっている「適応課題」です。
ひとりで考えているだけでは、この「自分を守ろうとする思い」はなかなか見えません。心理学者のトラップネルとキャンベルは1999年、自分について考えることを、好奇心から自分を見つめる「内省」と、不安や後悔から同じ考えを繰り返す「反すう」に分け、心の負担と結びつきやすいのは主に反すうのほうだと報告しています。コーチとの対話は、ぐるぐる回る反すうを、気づきにつながる内省へと変える場になります。
目的❷ 自己効力感を高める
自己効力感とは、ある行動を「自分ならうまくやれる」と感じられる感覚のことで、心理学者アルバート・バンデューラが1977年に提唱した概念です。
コーチングは、このうち複数に同時に働きかけます。小さな行動を決めて実際に達成し、その経験をコーチと振り返る。そして「あなたならできる」という言葉を、信頼できる相手から受け取る。この積み重ねが、自己効力感を少しずつ育てていきます。
人は弱い。
弱いからこそ、「できるよ」の一言が一歩を生む。
人は、ひとりだとうまくサボる
結局のところ、人は自分ひとりだと、うまくサボってしまう生き物です。決めたことを先延ばしにし、怖いことからは理由をつけて目をそらす。それは意志が弱いからではなく、人とはそういうものだからです。
だからこそ、第三者からの励ましには力があります。「大丈夫、できるよ」と声をかけてくれる人がいるだけで、勇気が湧いてくる。ICFも、コーチの役割の1つとして、クライアントが自分で決めたことに責任を持って取り組めるよう支えることを挙げています。
私自身、YouTubeを続けてこられたのは、一緒に伴走してくれる仲間がいたからです。その後、事業を立ち上げて実践していくときも、コーチのサポートがなければ、怖くて一歩を踏み出せませんでした。ひとりで強くなる必要はありません。誰かの支えを借りながら、少しずつ「できる」を増やしていけばいいのです。
研究でわかっていること
ティーブームらが2014年に発表したメタ分析では、職場でのコーチングが、パフォーマンス、ウェルビーイング、ストレスへの対処、仕事への態度、目標に向けた自己調整の5つすべてに良い効果を持つと報告されています。最も効果が大きかったのは、目標に向けた自己調整でした。また、グラントらの2009年の研究では、コーチングを受けた管理職のグループで、受けなかったグループに比べて目標達成度やレジリエンス(立ち直る力)が高まりました。
注意
これらの研究の多くは職場や組織の中で行われたもので、対象となった研究の数はまだ多くありません。また、成果を本人の自己評価で測っている研究が多く、「受けた人が良くなったと感じている」ことと「客観的に成果が上がった」ことは区別が必要です。コーチングは万能ではなく、コーチとの相性や信頼関係によっても効果は変わると考えられています。
目的❸ 新しい考えや発想を身につける
3つ目の目的は、コーチの腕の見せどころです。その人の思考の偏りに気づき、本人がまだ踏み込んでいない領域の知見やアイデアを提供すること。コーチは答えを押しつけるのではなく、新しい選択肢をテーブルに並べます。その中から何を選び、どう動くかを決めるのは本人です。
私たちが見ている世界は、ひどく限定されている
この現象は、コーチングの世界では脳の「RAS(網様体賦活系)」というしくみで説明されることがよくあります。ただ、RASの主な働きは目覚めや覚醒の調整で、「見たいものだけを選ぶフィルター」という説明は単純化されすぎています。確かに言えるのは、人は自分が注意を向けているものしか見えていないということ。普段見ている世界は、思っている以上に限られています。
コーチは、あなたの
「もう1つの脳」になる。
自分の頭以外の頭を使って発想する
内向型の人は、ひとりで深く考える力を持っています。これは大きな強みです(詳しくは内向型の強み)。一方で、ひとりで考える時間を好むぶん、人の頭を借りてアイデアを広げる機会は少なくなりがちです。ご相談でも、人間関係の悩みから人に頼ることをためらっている、という声をよく聞きます。
自分の頭の中だけで考えていると、同じ注意の向け方、同じ発想のパターンから抜け出しにくくなります。そこでコーチが、自分とは違う視点を持った「もう1つの脳」になります。見えていなかった選択肢、試したことのない考え方。それらに触れることで、堂々めぐりだった思考が動き出します。
内向型にとってのコーチングは、外向型のように振る舞えるようになるためのものではありません。性質はそのままに、脳の使い方を変える。内向型の生きづらさを感じている方にとって、それは「演じる」でも「こもる」でもない、第三の選択肢になります。
3つの目的は「内面の成長」と「成果」の両輪につながる
合同会社内向型では、コーチングのゴールを「内面の成長と成果の両輪を整え、人の可能性を最大限に発揮させること」と考えています。3つの目的は、この両輪を動かすための歯車です。
- 自分のこれまでに気づく自分を縛っていた考え方がゆるみ、内面が成長する。
- 自己効力感を高める「できる」と思えることで、怖くても行動できるようになる。
- 新しい発想を身につける行動の選択肢が増え、成果につながっていく。
成果だけを追うと心がすり減り、内面だけを整えると現実が動きません。両方を同時に整えることで、自分らしさを保ったまま、目に見える変化をつくることができます。私たちはこの「ありのままでいたい」と「成長したい」のあいだに立つ状態を「中庸」と呼んでいます。考え方の詳細は中庸メソッドで、プログラムの進め方は内向型専門コーチングで紹介しています。
コーチングが向いているかを確かめるチェックリスト
当てはまるものが多いほど、コーチングが力になりやすい状態です。
- やるべきことはわかっているのに、行動に移せない
- 完璧にやろうとして、始めるのが遅れたり、途中で止まったりする
- ひとりで決めたことは、なかなか続かない
- 「どうせ自分には無理だ」と、挑戦する前にあきらめてしまう
- 考えが同じところをぐるぐる回り、新しい案が出てこない
- 人に相談するのが苦手で、ひとりで抱え込みがち
反対に、悩みがなく、自分で課題を見つけて動けている方には、いまはコーチングは必要ないかもしれません。
注意
気分の落ち込みや不安が続く、眠れないなど、心身の不調で日常生活に支障が出ている場合は、まず心療内科・精神科などの医療機関に相談してください。コーチングとカウンセリングの違いや選び方は、コーチングとカウンセリングの違いで詳しく比較しています。
まとめ:コーチングの真の価値は「ひとりでは届かない一歩」にある
コーチングの目的は、自分のこれまでの考え方や生き方に気づくこと、自己効力感を高めること、新しい考えや発想を身につけることの3つです。どれも、自分ひとりの頭と意志だけでは手に入りにくいものです。
人は弱く、自分の見ている世界は限られています。だからこそ、気づきを促し、励まし、新しい視点を差し出してくれる伴走者がいることに価値があります。
ひとりでは届かなかった一歩を、
一緒に踏み出すこと。
それが、コーチングの真の価値です。
参考文献
- International Coaching Federation. What is Coaching? ICF公式サイト.
- Heifetz, R. A. (1994). Leadership Without Easy Answers. Harvard University Press.
- Kegan, R., & Lahey, L. L. (2009). Immunity to Change: How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization. Harvard Business Press.(邦訳:ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』英治出版)
- Trapnell, P. D., & Campbell, J. D. (1999). Private self-consciousness and the five-factor model of personality: Distinguishing rumination from reflection. Journal of Personality and Social Psychology, 76(2), 284–304.
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Theeboom, T., Beersma, B., & van Vianen, A. E. M. (2014). Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context. The Journal of Positive Psychology, 9(1), 1–18.
- Grant, A. M., Curtayne, L., & Burton, G. (2009). Executive coaching enhances goal attainment, resilience and workplace well-being: A randomised controlled study. The Journal of Positive Psychology, 4(5), 396–407.
- Simons, D. J., & Chabris, C. F. (1999). Gorillas in our midst: Sustained inattentional blindness for dynamic events. Perception, 28(9), 1059–1074.
よくある質問
コーチングの目的は何ですか?
大きく分けて3つあります。1つ目は、自分のこれまでの考え方や生き方のくせに気づくこと。2つ目は、「自分ならできる」という自己効力感を高めること。3つ目は、コーチという別の視点を借りて、新しい考えや発想を身につけることです。
コーチングが必要ないのはどんな人ですか?
悩みがなく、自分で課題を見つけて自分で動ける人には、コーチングは必ずしも必要ありません。コーチングが力を発揮するのは、「わかっているのにできない」「完璧にやろうとして行動が止まる」といった、知識ではなく心の動きが壁になっている場面です。
コーチは答えを教えてくれないのですか?
答えを押しつけることはしません。ただし、本人が踏み込んでいない領域の知見やアイデアを提供するのは、コーチの大切な役割です。提供された視点の中から何を選び、どう動くかを決めるのは本人です。
コーチングにはどんな効果がありますか?
職場でのコーチングを対象にしたメタ分析では、目標達成に向けた自己調整、パフォーマンス、ウェルビーイング、ストレスへの対処などに、平均して中程度の良い効果が報告されています。ただし研究数はまだ多くなく、自己評価による測定が多いなどの限界もあります。